音が意味するものは?

女はそれぞれ音をもっているけど、いいか、角だつな。さわやかでおとなしいのがお前の音だ。料理人の佐吉は病床で聞く妻の包丁の音が微妙に変わったことに気づく・・・。
音に絡み合う女と男の心の綾を小気味よく描く表題作。

五感によって関係性を見出し、物事を解釈する
そういう文章というのは難しいし、そういう優れた作品を書く人も少ない。

五感といっても、それぞれの感覚というのはもっともっと細分化できる。
細分化し、それを自覚し伝達するためには言語化も必要になってくる。 

幸田文はそれができる。

『台所のおと』は短編集の中の表題作。
死を待つのみの病に侵され、床に臥している料理人の夫。彼は床に臥しながら妻の「台所のおと」を聞いている。ひとつひとつの音から妻自身の状況を想像する。

音とは空気の振動である。振動は何かと何かがぶつかって始めて生じる。つまり何かと何かの関係性を意味している。一方に変化があれば、もう一方に変化がなくても音は変わる。関係性は変わる。

一人暮らしをしていると「台所のおと」を意識しなくなる。他人の「台所のおと」が聞けないからだ。子供の頃、朝起きると母親が朝食を作っている音が聞こえた。僕はその音が好きだった。とこの本を読んで自覚した。(コーヒー豆を挽く電動ミルの音はうるさかったが。。)生活音は共に暮らす者にとって重要な要素である。僕の場合。(ちなみに僕はほぼ無音である)

音自体が関係性の結果であると共に、その音自体がまた別の関係性の媒体にもなる。

幸田文は幸田露伴の娘。父親が偉大な作家であり、その娘も作家として優れているという事例は
先日他界した吉本隆明の娘「よしもとばなな」もそう。他にいないだろうか?
 
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幸田 文

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